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臓器移植法改正案は、26日に参院本会議で審議入りする。今のところ、衆院を通過したA案と参院有志による対案の2法案で議論が展開されそうだ。ただ、脳死を「一般的な人の死」とするA案への支持には濃淡があり、審議は「A案VS参院有志案」という単純な構図にはとどまらない可能性もある。A案の修正を巡って議論が混とんとする事態も予想される中、成立前に衆院が解散されれば廃案となる事情も絡み、審議の行方は見通せない。【鈴木直】
A案は脳死を人の死とし、本人が拒否しなければ家族の同意で年齢にかかわらず臓器摘出が可能となる。参院では自民、民主両党の医師の議員らが中心に推している。
これに対し、参院有志案の死の定義は、本人が臓器提供の意思を示していた場合に限り脳死を死と認める現行法を維持している。現行法との違いは、内閣府に「子どもの脳死臨調」を設置し、1年以内に脳死判定基準などを検討するとしている点。A案に慎重な民主党の千葉景子氏らが提出し、共産党を含む野党各党の52人が賛意を示す。全参院議員の2割を超す勢力だ。
ただ、今後の審議はA案と参院有志案の対立ばかりでなく、A案派内の論争にも発展しかねない状況となりつつある。
「とにかく、『脳死は人の死』というのはまずい」。24日、死の定義を現行法通りとしたD案(廃案)を衆院に提出したグループに近い参院議員は、A案の修正が必要との考えをにじませた。
移植の推進を願うA案寄りの議員の中にも、死の定義の変更には慎重な人も少なくない。A案は「臓器移植を行う場合のみ法的脳死判定を受ける」とした現行法の規定を削除しているが、「中間派」を取り込むため、A案支持者の一部ではこの条文を復活させることなどが検討されている。また、A案の「親族への臓器優先提供規定」の廃止を検討している議員もいる。
衆院ではA案に賛成した263人中、自民党が202人を占めた。このため、民主党のA案支持者には「民主側を固めれば大丈夫」との見方もあるが、ある自民党参院議員は「そんなに甘くない」と話し、修正も選択肢に入れるべきだと言う。
ただ、A案支持者はこうした「現実派」ばかりでなく、修正を嫌う「理念派」も多い。両者が衝突する恐れもあり、簡単に修正には踏み出せない。A案側から早々に修正案を出すと、「ブレた」との印象を与えかねないという思惑もある。
一方、参院有志案を提出した側も、必ずしも一枚岩ではない。24日午前、民主系会派の勉強会で、参院有志案の提出者の一人、谷岡郁子氏(民主)は「法制定後であっても子どもの脳死臨調的なものを持った方がいいのではないか」と語った。有志案の柱「子どもの脳死臨調」の設置を約束するなら、A案で構わないとも受け取られかねない発言だった。
23日には民主党の西岡武夫参院議運委員長がA案の死の定義に疑問を示し、今国会での採決に消極的な姿勢を示す一幕もあった。参院でA案が修正されれば衆院の同意を得ねばならない。また、参院有志案が可決された場合も衆院での審議が必要で、いずれにせよ国会会期末(7月28日)に間に合わない可能性がある。
毎日新聞 2009年6月25日 東京朝刊